タンパク質

タンパク質は、アミノ酸(アミノ基=アンモニアNH3から水素原子を1つ撤去したものと、カルボキシル基=COOHを有する有機化合物)が組み合わされてできる高分子化合物です。日本人の食事摂取基準(2020年)では男女とも10才以上で毎日62g以上のタンパク質摂取が推奨されています。

タンパク質(アミノ酸)は筋肉や免疫細胞を含む全ての細胞を構成する主要材料であり、代謝によりATPに分解されエネルギー源ともなる、人にとって欠かすことのできない栄養素です。生物の設計図であるDNAは、アミノ酸の配列を記録しているプログラムのようなものです。

アミノ酸が鎖状に数十程度繋がったものをペプチドと言い、数百以上繋がったものをタンパク質と言います。要するに、タンパク質も、ペプチドも、アミノ酸も、基本的に同じものです。

神経伝達物質

いくつかのアミノ酸は、神経細胞と神経細胞の間で様々な情報をやりとりする「神経伝達物質」として使われています。そのため、アミノ酸が不足すると情報伝達できなくなり脳の機能が低下し、発達障害や自閉症の問題点が大きくなったり、認知症が悪化したり、うつ病などの精神疾患が悪化したりしてしまうのです。

ヒトはタンパク質を分解して様々なアミノ酸を合成して利用していますが、ヒトの体内で合成することのできない「必須アミノ酸」も9種類あり、それらは食品から摂取するしかありません。

必須アミノ酸

バリン、ロイシン、イソロイシン(この3つはBranched Chain Amino Acids = BCAA分枝鎖アミノ酸と呼ばれ特に大切な必須アミノ酸です)
トリプトファン、リシン、メチオニン
フェニルアラニン、トレオニン、ヒスチジン

必須アミノ酸は連携して働きますので1つでも不足すると体内のタンパク質合成に支障を生じてしまいます(アミノ酸の桶理論)

アミノ酸の桶の理論( 国立長寿医療研究センターより)

免疫細胞を造ることができなくなれば免疫力が低下してしまいますし、脳内で神経細胞の分裂ができなくなれば記憶力が低下してしまいます。特にトリプトファンは、幸福ホルモンと呼ばれるセロトニンの材料となりますので欠乏症をなんとしても避けなければなりません。

天然の抗うつ薬

メチオニン不足も、うつ病との関連性が指摘され、活性型メチオニン( S-Adenosylmethionine; SAM-e )は欧米では処方薬として使われています。1日200-1600mgの摂取で三環系抗うつ薬と同程度の抗うつ作用が認められたという論文もあります。メチオニンは天然の抗うつ薬とも言える栄養素です。

※ハーバード大学医学部うつ病臨床研究課程の論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12420702

ロイシン不足で、高齢者の筋肉量の低下=サルコペニア発症、又は虚弱=フレイルティのリスクが高くなると指摘されています。ロイシンを含むBCAAや必須アミノ酸をバランス良く摂取し、継続的なレジスタンス運動(ダンベル・スクワットなど筋肉に抵抗を掛ける運動)により、筋肉減少を予防できる可能性があります。筋肉から、記憶力を高めたり、うつ病を予防したりするメッセージ物質が分泌されますので、ロイシン摂取は重要なポイントになります。

※厚生労働省、「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」策定検討会報告書抜粋
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042643.pdf

トリプトファンの多い食材

蕎麦、うどん、パスタ(主食でコメだけ食べているのでは不足しがち)
カツオ、マグロ、レバー肉、乳製品(おかずもきちんと食べないと不足しがち)

メチオニンの多い食材

肉類(鶏ムネ、豚ヒレ)、魚類(サケ、サバ)、大豆(枝豆)、チーズ、雑穀類、玄米

ロイシンの多い食材

肉類(鶏ムネ、牛モモ)、魚類(サケ、サバ)、大豆(高野豆腐、枝豆)、チーズ

レシチンは、体内合成できるので必須アミノ酸ではありませんが、記憶物質とされるアセチルコリンの原料となるので重要な栄養素です。大豆(豆腐・納豆)か卵で摂取しましょう。

チロシンは、神経伝達物質ノルアドレナリンの原料となり、うつ抑制効果のあるアミノ酸です。肉類、チーズ類、大豆、海藻、魚介類で摂取しましょう。

カルニチンは、記憶力を高め、うつ抑制効果もあるとされているアミノ酸です。牛肉は、豚肉の4倍、鶏肉の14倍のカルニチンを含むとされ、牛肉好きにウツが少ないと言われる原因と推測されています。

記憶学習能力を高めるブレーンアミノ酸と呼ばれているのが、イソロイシン、フェニルアラニン、アルギニン、グルタミン酸、チロシンの5つです。鶏卵はこれを一挙に摂取できる優良食材です。

アミノ酸スコア

タンパク質を摂取するときに注意すべきことは、アミノ酸スコアの高い食品を摂ることです。これは、食物に含まれるタンパク質に必須アミノ酸が必要な割合含まれているかを数値で示した物で、WHO世界保健機関とFAO国際連合食糧農業機関が評価した割合に従って計算されます。これはアミノ酸の割合を示す数値ですので、タンパク質の量とは関係ないことに注意が必要です。現在では、アミノ酸スコアに、ヒトにおける食品タンパク質の消化吸収率を掛けた、Protein Digestibility Corrected Amino Acid Score(PDCAAS、タンパク質消化率補正アミノ酸スコア)も使われています。

https://en.wikipedia.org/wiki/Protein_Digestibility_Corrected_Amino_Acid_Score

タンパク質の量も加味して考えるならば、100gあたりのタンパク質量にPDCAAS(タンパク質消化率補正アミノ酸スコア)を掛け算した数値が参考になります。これを「アミノ酸スコア量」と名付けましょう。食材を食べた時に実際に吸収できるアミノ酸量の目安です。日本人の主食であるコメだけだと大幅に不足することが分かります。蕎麦やウドンやパスタ類も併用し、肉や魚や大豆(納豆、味噌)等おかずもしっかり摂ることが大事です。

肉好きは鬱が少ない

という仮説があります。適度な肉食も健康維持に必要な事と考えましょう。コメ小麦など穀類はリジンが不足しがちですので、リジンの多い魚類、大豆類と一緒に摂るように心掛けましょう。ごはんに魚介味噌汁というのは最高の組み合わせと知るべきです。もちろん肉類、乳製品と一緒に摂っても良いです。

食品名タンパク質量補正アミノ酸スコアアミノ酸スコア量
野菜類1g0.730.7g
コメ2.5g
0.51.3g
牛乳3.3g13.3g
小麦粉8.3g
0.423.5g
蕎麦14g0.567.8g
鶏卵12.3g112.3g
肉類14g0.9212.9g
大豆16.5g0.9115g
魚類25g0.922.5g

タンパク質は「酵素」として様々な代謝を触媒します。生卵がゆで卵になるように、タンパク質は60度以上で変性してしまいますから、酵素タンパク質を摂取するときは、なるべく加熱せず食べることが推奨されます。生野菜、生の刺身、生ハムなどです。酵素が働く最適温度は35~40度と言われており、体温が低いひとは酵素の働きも低下してしまいます。39度の湯船に20分浸かる入浴法はこれを補う効果があるでしょう。

グリシンとテアニンは、睡眠アミノ酸と呼ばれ、睡眠の質を高め、脳の働きを高める機能があるとされています。

ガンマアミノ酪酸(GABA)は、30mg摂取後1時間のストレス軽減作用があるという研究もあります。

記憶力を高める機能を持つペプチドであるβラクトリンが発見されています。ロイシンとヒスチジンが結合したLHジペプチドの抗うつ作用も報告されています。様々なペプチドを生活の中に取り入れてみましょう。

脳に良いペプチド

LHジペプチドでウツ抑制

動物性脂肪の融点

なお、動物性タンパクや、様々な栄養素を摂取するために、動物の肉類も摂取する必要がありますが、一般に動物の体温はヒトよりも高めになっており、動物性脂肪はヒトの体内で凝固しやすい性質を持っています。タンパク質の摂取については、植物性タンパク質、魚類タンパク質と、動物タンパク質をバランス良く摂取すると良いでしょう。動物類ばかり摂るのは良くないということですね。

動物類の体温一覧
鯨:36.5度
馬:37.6度
牛:38.6度
豚:38.9度
羊:39.1度
鶏:41.7度
※出典『明解獣医学事典』チクサン出版社 1991.12など

食事誘発性熱産生

食事誘発性熱産生 / DIT

栄養素によって摂取した時の発熱量が異なります。食事をした後は、安静にしていても代謝量が増えます。この代謝の増加を食事誘発性熱産生(DIT: Diet Induced Thermogenesis)といいます。

タンパク質は摂取エネルギーの約30%、糖質は約6%、脂質は約4%が発熱に使われます。タンパク質は体温を上げ、免疫力を高める栄養素です。従って、起床後の体温を上げるために朝食でタンパク質を摂ることは有効な食事法となります。朝食でパン(炭水化物)にバター(脂肪)を塗るだけでは駄目で、タマゴ(タンパク質)も摂るべきです。

タンパク質の分解

炭水化物、たんぱく室、脂質摂取後の血糖値
1997 American diabetes association

タンパク質を摂取すると約3時間後に血糖値が上がります。これは受験などの際に、食後3時間で脳の栄養素となるブドウ糖に分解されることを意味します。脳のスタミナを3時間後に維持するには、受験の朝ごはんにはタンパク質の摂取も必要ということです。逆に受験のお弁当は短期決戦なので炭水化物中心で良いでしょう。