食物繊維は、炭水化物のうちヒトの小腸で吸収されにくいものです。水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維があります。どちらも水分を吸収して胃腸で膨らみ満腹感を生み、便のカサを増やして便通を改善します。そのため、食物繊維が不足すると便秘になり過剰だと下痢気味になります。また、糖類や脂肪分など栄養分の腸内における濃度を低下させ吸収をゆるやかにして、血糖値の上昇をゆるやかにする機能があります。
食物繊維は小腸で吸収されないので、小腸の外側に居る腸内細菌がエサとして利用することができます。糖アルコールやオリゴ糖などの難消化性糖質も同じように腸内細菌のエサになります。腸内細菌が食物繊維を分解すると短鎖脂肪酸が生成され、それが腸上皮細胞のエネルギー源となり、抗炎症作用もあるとされています。
炭水化物を人間が利用し、食物繊維を腸内細菌が利用しているのは、人間と腸内細菌が、仲良く食べ物を分け合っているようにも見えますね。
最近の研究で、腸には「第二の脳」とも呼ばれる独自の神経ネットワークがあり、自律神経や体内の様々なメッセージ物質(ホルモンやサイトカイン)を通じて相互に影響しあっていることが分かってきました。これを「脳腸相関」(brain-gut interaction)と言います。腸が健康でなければ脳は健康になれないし、脳が健康でなければ腸も健康になれないのです。腸内細菌を健康な状態に保つことが、発達障害(自閉症スペクトラム)のコントロールや、認知症や鬱病の改善に役立つ可能性があります。
平成28年の国民健康・栄養素調査によると、男女年齢別総計で日本人は毎日平均14.2グラムの食物繊維を摂取していますが、厚労省の食事摂取基準では、成人男性20g以上、成人女性で18g以上摂取することが推奨されており、慢性的に不足している栄養素です。現代日本人の腸内細菌は栄養不足に陥っているのです。食物繊維には様々な種類があり、腸内細菌がエサとして利用しやすいものが異なりますので、様々な種類の食物繊維をバランス良く摂取すると良いでしょう。例えば、ゴボウは食物繊維が多いからとゴボウばかり食べていては腸内環境の改善は見込めないということです。食物繊維の豊富な野菜を食事の最初に摂るようにすると、食後血糖値の上昇が抑制できることが分かっています。そのため、食事の最初に野菜を食べるよう「ベジファースト」運動が行われています。最初に豆類を摂る「ソイファースト」もお勧めです。
※大塚製薬の食物繊維紹介記事
https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/fiber/intake/foods-amount/
食物繊維の分類と豊富な食材
水溶性食物繊維
ケール、抹茶、カレー粉
グルコマンナン(コンニャク)
アルギン酸(昆布、ワカメ、海草類)
グアーガム(グアー豆=ゲル化剤として、ジャム、ソース、アイス、ドレッシングなどに使われる)
ペクチン(モロヘイヤ、オクラ、イチジク、リンゴ、甜菜=ゲル化剤として、ジャム、ゼリーなどに使われる)
アガロース(寒天)
イヌリン(大根、ゴボウ、ニンニク)
ベータグルカン(きのこ類、バーリーマックス大麦、もち麦、ライ麦)
ポリグルタミン酸(納豆)
不溶性食物繊維
セルロース(植物細胞壁に含まれる多糖類、ライ麦、全粒粉、シリアル=穀類、野菜類)
ヘミセルロース(植物細胞壁に含まれる多糖類、穀類、野菜類)
リグニン(植物細胞壁に含まれるポリフェノール、高野豆腐・おから=うの花・大豆・小豆・ココア=豆類)
低FODMAP食
但し、現代人に増えているIBS過敏性腸症候群の場合は事情が異なります。消化器系の悪性腫瘍など他の病気が無いのに、腹痛や便秘や下痢を数ヶ月以上繰り返す病気に、人口の15%、7人に1人の割合で罹患しているというデータもあります。現代的な食生活やストレス環境が原因とされています。
Fermentable発酵性、Oligosaccharidesオリゴ糖、Disaccharides二糖類、Monosaccharides単糖類、And、Polyols糖アルコール、略してFODMAPを控えましょうというのが低FODMAP食です。「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言いますので、食物繊維も摂りすぎは良くないのです。古代人の飢餓状態を思い出しましょう。
Fermentable発酵性・・・ 未消化の炭水化物を発酵させてガスを発生させる。ヨーグルト、キムチ、漬物などの乳酸菌。
Oligosaccharidesオリゴ糖・・・ フルクタン、ガラクトオリゴ糖(小麦、ライ麦、タマネギ、ニンニク、豆類、食物繊維)
Disaccharides二糖類・・・ラクトース乳糖(牛乳、ヨーグルト、柔らかいチーズ)
Monosaccharides単糖類・・・フルクトース果糖(ハチミツ、リンゴ、コーンシロップ)
And
Polyols糖アルコール・・・キシリトール、ソルビトール、マンニトール(人工甘味料など)
※参考記事