衛生仮説(Hygiene hypothesis)は、幼児期の特定の微生物(細菌や寄生虫など)への曝露が免疫系の発達に寄与することによりアレルギー性疾患や自己免疫疾患などを予防できるのではないかとする仮説です。逆に言えば、衛生状態の向上がアレルギー疾患を悪化させているのではないかとする仮説です。
古くは1968年頃から、寄生虫感染と免疫障害の逆相関が指摘されてきましたが、最初に衛生仮説として問題提起したのは、疫学者デイヴィッド・ストラカンの1989年の論文でした。ストラカンは20世紀における喘息などのアレルギー疾患増加は、幼児初期の感染体験の低下が原因のひとつではないかと提案しました。
90年代以降、衛生仮説を検証する研究が増加し、通常分娩よりも帝王切開の方が母親からの腸内細菌の承継が不調となりアレルギー発症率が高いことなどが指摘されています。
※幼児期のリポ多糖LPS刺激がアレルギー予防に繋がる可能性を指摘した論文
※アレルギーと衛生仮説
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/44/1/44_1_21/_pdf
※アトピー性皮膚炎(小児)疫学調査の結果にもとづくわが国での発症・悪化因子の検討
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-04.pdf
※ヒトにおけるプロバイオティクスの有効性と腸内細菌叢との関わり
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/33/4/33_175/_pdf
アレルギーを予防する可能性のある因子を列挙します。
- 年上の兄姉が居ること(兄姉を通じた感染症暴露)
- 大家族、親族の近所に住み接触が多いこと(感染症暴露)
- 動物と一緒に暮らす(家畜、ペット、ふれあい動物園好き)
- 早期の託児=集団生活(感染症暴露)
- 結核、麻疹、A型肝炎ウイルス暴露
- 田舎の環境(森林浴でLPS接触)
- 完全母乳栄養
- 抗生剤投与無し(あるいは投与少)
- 糖脂質LPSの摂取(明日葉、ワカメ、メカブ、人参、玄米、全粒粉、そば、レンコン、ひじき、海苔、ヒラタケ、ごま、どくだみ)
糖脂質LPSは、植物共生菌パントエア菌の細胞膜の成分で、スーパーフードと呼ばれる食材に含まれていることが多く、ブレインフードと言っても良いでしょう。腸内細菌叢のバランス改善を介して発達障害ASDの予防に役立つ可能性も指摘されています。
現代人の食生活では腸内細菌のエサが不足しがちであると言われています。レジスタントスターチ、食物繊維、オリゴ糖などのプレバイオティクス食材を意識して摂取することも大切です。
日経サイエンス2018年4月号では、衛生仮説と「ポリオや多発性硬化症や1型糖尿病」との関連性が述べられています。20世紀初頭には15歳未満の子供10万人につき1~2名の頻度だった1型糖尿病発症が、1950年代以降に10万人あたり20~60人と急増しているのは、人々が「より清潔な世界」を求めるようになったからではないかと議論されています。1型糖尿病の増加は21世紀に入っても続いているそうです。
※参考記事
※参考書籍
ブレット・フィンレー、マリー=クレア・アリエッタ、「きたない子育て」はいいことだらけ! ―丈夫で賢い子どもを育てる腸内細菌教室
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