PBWF革命

コリン・キャンベル、WHOLE がんとあらゆる生活習慣病を予防する最先端栄養学

アメリカでベストセラーとなっている「チャイナスタディー」の著者コリンキャンベルさんの近著です。「チャイナスタディ」では広大な国土に多様な食生活の集団が併存している中国で食生活と疾病の因果関係を研究して生み出された食事法、プラントベースのホールフードPBWFを提唱し食事革命が起きると思ったが何故か起きなかったので、その理由を考察した、という本です。

定義・・・PBWFは、動物タンパク摂取が発がん性を高めるという研究成果を逆用し、動物タンパクを極限まで減らす食事ライフスタイルです。カロリーの8割を炭水化物から摂取し、1割を脂質、のこり1割をタンパク質から摂取します。ベジタリアンは「肉」以外の動物タンパクである卵やチーズ乳製品を摂取しますし、ヴィーガンは動物タンパクを排除するが、精製油脂、精製炭水化物、塩や加工食品を摂取することがあるのでPBWFとは違います。PBWFはダイエットではなくライフスタイルです。

ベジタリアンヴィーガンとも違うということは、マクロビオティックみたいなものでしょうか。日本の寺の精進料理もちょっと似ているかもしれません。

PBWFについて著者は次のように書いています。

『PBWF食を受け入れた人は、大半の健康上の問題は以前の食事によって起こった、あるいはそれが原因で大幅に悪化したと気がつきます。そして体が正しいものを取り入れはじめたとたん、問題は自然に速やかに解消します。1日3回がんばって自分の頭をトンカチで叩きながら、何をやっても頭痛が治らないと言っている人を見てどう思いますか。常識で考えれば、トンカチで頭を叩くのをやめればいいだけのことです。』

※参考サイト

https://nutritionstudies.org/

そして、この本のもう一つの主要テーマが「ホーリズム」です。全体を観よ、というのです。それは、細部にこだわるリダクショニズムのパラダイムからの脱出を意味します。リダクショニズムで個々の薬剤の効能を調べることはできますが、食生活全般の栄養を評価するにはホーリズムが有効だといいます。

リダクショニズム(細分主義)・・・医学栄養学も含めた科学は自然を細分化して観察するリダクショニズムの手法で発展してきました。リダクショニズムには大きな成果がありましたが、他方でホーリズム(全体主義、全体を観察する)の視点でないと見えてこない真実もあります。西洋医学では個々の臓器、個々の細胞を観察しますが、東洋医学では体をエネルギーのネットワークと見て身体全体を観察します。

20世紀前半、ビタミンなどの栄養素を競って探索していたリダクショニズムの栄養学は、DNA発見後、更に細分化されたリダクショニズムの遺伝学に取って代わられたが、ホーリズムの栄養学は遺伝学よりも人々の健康に役立てることができると著者は言います。人が別の国に移住すると、遺伝子は変わらないままなのに発がん率は移住先の国の発がん率に寄っていくし、一卵性双生児の発がん率は完全に一致せず、栄養も含めたライフスタイルの違いに左右されるというのです。

リダクショニズム医学では「万能薬」は存在しないと信じられていますが、ホーリズム栄養学ではPBWF食は「万能薬」です。

この本を読んで思い出したのは、身体改造でプロテインを大量摂取するプロスポーツ選手のガン死亡ニュースです。アンディフグ、平尾誠二、古賀稔彦、山本KID徳郁、北の湖、千代の富士、訃報に接する度に若いのに何でと思います。無酸素運動をやり過ぎると活性酸素が大量発生して遺伝子を傷つけるという理屈もあるようです。マラソン選手が大会などでマラソン完走すると免疫力が低下して風邪を引きやすいとも言われます。そこに更に動物性プロテインの補給も関与している可能性があると思いました。WHOのIARC国際がん研究機関の発がん物質分類でも肉類の発がん性がリストアップされています。

Screenshot of www.maff.go.jp

しかし発がん性は複合要因で決まるので、個々の要素を試験しても判明しにくいでしょう。運動が身体に良いのか悪いのか、簡単には決められないのです。運動といっても様々な運動強度と日々の栄養状況がありますから、難しい問題です。

この本では更に、リダクショニズムに支配された人間社会は地球温暖化を止めることが出来ないが、肉食をやめれば、畜産によるメタンガス発生も、地下水の枯渇も回避することができると書かれています。PBWF革命は、個人の食生活だけの問題ではなく、地球全体の課題をも解決できるというのです。驚きですね。

私たちの健康や地球環境を悪化させているリダクショニズムによる思考の監獄には鍵が掛かっていません。いつでも監獄を抜け出してホーリズムの世界に飛び込むことができるようになっています。それにも関わらず何故、このパラダイムが転換されないのか詳細に説明されています。この本には、著者の妻が皮膚ガンでリンパ節切除を申し渡された話が載っています。それを拒否したときの医師との軋轢の大きさと、PBWF食によりリンパ節切除することなく8年間無事であることが紹介されています。

この本を読んで、健康科学分野は、他の科学分野とは違って、経済利益によって歪められていると知りました。例えば物理学であれば、新しいパラダイムが出現し実験で確かめられたら、相対論や量子力学のようにどんなに自分の常識からみて「信じられない」内容であっても徐々に学術界で受け入れられていくものですが、健康科学分野では少し事情が違う様子です。現行システムが大きな利益を生む循環システムを運営しており、この医療・食品システムの運営を邪魔するような知見は黙殺されるというのです。研究助成システムの審査は過去にリダクショニズムの研究助成を受けたことのある研究者が担当しており「焦点が定まっていない」「目的意識に乏しい」という理由でホーリズムの研究を排除していますし、科学ジャーナリズムにおける査読システムでも広告主の影響でリダクショニズムに偏った査読者によりホーリズム研究が退けられています。政党も政府も、産業界に忖度してリダクショニズムに浸っています。産業界、学術界、政官界は人事交流しておりリダクショニズムのチームを形成しています。「患者支援団体」を名乗る非営利団体ですら食品産業と製薬産業と医療産業の資金提供を受けておりリダクショニズムから抜け出ることはできません。真実を知ることが難しい状況ですが、医療業界や食品業界や医療業界の事業規模の大きさを考えれば納得です。恐ろしいですね!

著者はPBWFが浸透しないと嘆いておられますが、アメリカでは野菜消費量が増加し、ガン罹患率は減少し始めています。

https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/y_h29_mitosi/pdf/yasai_shohi_jyokyo.pdf

逆に日本では野菜消費量が減少し続けており、1995年に国民ひとりあたり年間野菜消費量でアメリカに抜かれています。本書の警告は日本人にこそ意義深いものなのです。

リダクショニズムとホーリズム

リダクショニズム医学ホーリズム栄養学
観察対象細分化(細胞、遺伝子)全体化(全身状態)
医学体系西洋医学東洋医学(漢方医学)
治療方針対症療法予防的療法
診察対象症状に着目根本原因に着目
治療処置個別処置を好む体系的な処置を好む
投薬人工の化学物質自然の食べ物、薬草
副作用別の薬で軽減させる副作用なし
万能薬存在しないと考えるPBWF食が万能であると考える
ガンの原因発がん物質による遺伝子変異遺伝子変異と動物プロテインや酵素の複合要因
推奨される食事動物タンパク、サプリメント、乳製品動物タンパクや精製食材を食べないPBWF食
食事療法一時的なダイエットで補助的治療効果生涯続けるライフスタイルで主要効果
手術根治できると評価された侵襲的標準治療食事を変えなければ根治できないと評価
パラダイム現行パラダイム新しいパラダイム
目的人類の健康や地球環境の持続可能性を犠牲にしてでも、特定の業界の利益を増やし続けること人々の健康と幸福と地球環境の持続可能性
問題解決法購入して使用するだけで魔法のように簡単ライフスタイルの転換なので努力と時間を要する
学校給食の飲み物牛乳
物事を細分化して観察しようとするリダクショニズムと、全体から観察しようとするホーリズムは、同じものを見ているので本来は協働すべき手法ですが、人々は往々にして片方のパラダイムの中で全思考を閉じてしまうことがあり注意が必要です。

※参考記事

ホーリズムの見方

 


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