言葉のクスリ「こども折々のうた100」俳句編

大岡信、こども折々のうた100

言葉のリラックス効果は大きいですね。大岡信さんの「折々のうた」を子供向けに編集し直した好著が出ています。その中から、俳句4句をご紹介いたします。リラックス鎮静効果をご賞味下さい。

小林一茶(こばやしいっさ)
涼風(すずかぜ)の 曲がりくねって 来たりけり

一茶が江戸の裏路地に住んでいた頃を思い出して詠んだ一句です。曲がりくねった路地の奥に質素な暮らしをしているのですが、そんな我が家にも真夏の涼風は来てくれた、という感動を表現しているのですね。人だけでなく涼風すら曲がりくねって来たという自虐もあるでしょうし、涼風はお金持ちも貧乏も無い、平等にやって来てくれるんだなあ、という感慨もあるでしょう。不平等な人間社会と平等な自然との対比ですね。

高浜虚子(たかはまきょし)
白牡丹(はくぼたん) といふといへども 紅(こう)ほのか

明治大正昭和の俳人小説家である虚子が、立派な白牡丹をじーっと観察しています。そうすると、うっすら紅が刺していることに気付きました。なーんだ、白牡丹といっても真っ白じゃないのか!この感動を俳句にしたのです。そのうっすらとした紅の美しいこと!あなたも見てご覧なさい、立ち止まって自然を観察すればあなたも感動できますよ、と誘っているかのようです。

中村草田男(なかむらくさたお)
玫瑰(はまなす)や 今も沖には 未来あり

虚子の弟子、東大国文科から国語教師、国文科教授になりました。真夏の海岸で濃い真っ赤な(濃いピンクの)ハマナスが咲いている。空には白い雲と青い空、海も真っ青です。ハマナスの赤と海の青、今と未来の対比が見事に描かれています。スケールの大きな句ですね。この句の主眼は、沖に見える未来です。海の遠くで太陽が反射してキラキラ見えているのですね。「前途洋々」という言葉がありますが、それを作者は感じているのでしょう。もしかすると作者は何か嫌なことがあった直後にこの句を詠んだのかもしれません。嫌なことがあったけど、ハマナスは真っ赤に元気に咲いているし、沖を見れば明るい未来がキラキラと輝いているではないか、と自分を励ましている俳句なのかもしれません。

飯田龍太(いいだりゅうた)
いきいきと 三月生(さんがつう)まる 雲の奥(くものおく)

俳人飯田蛇笏の四男。雲の上から朝日を見下ろす感じです。作者は登山して春の夜明けを見に行ったのでしょうか。3月が生まれるというのは、3月1日の未明に暗いうちから出掛けたということですね。泊まりがけの登山だったかもしれません。大変な思いをして、未明に雲の上まで登山してくると、雲の奥から立ち上る3月の太陽がいきいきと見えた!日の出直前、雲の奥は複雑な色合いです。それはとても言葉で表現できないから、シチュエーションを詠んだのですね。あなたも分かるよ、夜明けの雲の奥を見れば!そして、その時の気持ちは、もう3月か、もう春だな!という喜びなんですね。


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